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美術折々_302
ある曲面のうちとそと
たとえば。柔らかく薄く、だがつよい張りと伸縮するゴムで出来た楕円空間の部屋の中に、僕はいるようで。
そしてこの両手で直にその壁というか天井というか、あるいは床と言ってもいいのか、それらの明確な境目はないゴムの曲面を拡張するようにして、僕はいま「絵」を描いているのだけれど。
しかしそれを「絵画」と呼んでいいのかどうか。さらにそれでも、そのゴムの向こうに「芸術」はあるのだろうか。
それともやはり芸術というものは、このゴムの部屋の中にいまだ窒息するようにしながらも、悶え励んでいるのか。
作品というものに対して「いつともなく完成は始まる」と言ったとしても。かんじんの芸術が、もしすでに私たちの手の中にないのなら。見知らぬどこかのユニコーンに売り渡されていたのなら。
それでも「芸術」は立ち行くことが出来るのだろうか。僕は心底から案じている。