元村正信の美術折々/2018-12-02

明日なき画廊|アートスペース貘

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美術折々_179


「官民連携」という、リニューアルの向こう


もうすぐ「水道法改正案」が、国会で成立する見通しだという。今後、自治体が水道事業の「運営権」を民間に委託していく、いわゆる水道の「民営化」と言われるものだ。それにより、さらなる企業の成長戦略と資産市場の活性化を促そうとしている。しかしこの民営化の結果、先例諸国ではサービスの名のもとに料金の高騰や水質悪化を招いて、パリやベルリンなど267都市で再び公営に戻されてしまった。そもそも生命維持の根幹に関わる「水」の供給を、利益も出にくい水道事業を、特に日本のように水道水をそのまま飲むこともできる国にとっては、この民営化による官民連携の市場化に適用するには不安や反対も多い。

「民営化」といえば、同じように「運営権」を民間に移行することになるPFI方式を採用 した、福岡市美術館もそうである。2016年9月からの改修休館を経て2019年3月21日から始まるリニューアルオープン展に向けて、いま追い込みの段階だ。メディアへの告知も増えつつある。このリニューアルに際しては、公募によって選定された民間事業者が、実施設計以後の資金の調達から建設、維持管理さらに美術館運営までを一括して行う。
その落札価格は約99億8800万円超。ほぼ100億近い金を、今後15年間に渡って福岡市民及び利用者は民間事業者へ、いわば「分割返済」して行くことになる訳だ。

再開後も所有権は福岡市美術館にあるが、施設の運営権は新たに設立された特別目的会社「福岡アートミュージアムパートナーズ株式会社」が持つことになる。同社は今後、民間のノウハウを活用した事業運営の効率化やサービスの向上などを具体化させていく中で、美術館運営に関する商品開発・販売等の様々な収益や利用料金を自らの収入として受け取ることができる訳だ。

いまから3年前。2015年11月30日付「福岡市美術館リニューアル事業者選定委員会」の報告書には、市の要望として「市の実施する教育普及事業と事業者が実施するイベントの役割分担の明確化」が記されている。つまり美術館事業の官民の分担・連携が強調されていた。言うまでもなく美術館の根幹を成すのは、「美術品」の展示企画・収集そしてその保管・修復を含めた調査・研究さらに教育普及である。ただその根幹が、美術館運営の効率化やサービス向上、売り上げの数値によって歪められてはならないだろう。

ともあれ福岡市美術館はこれからの当面15年間、それを〈所有〉する市と〈運営〉する民間事業者との、
いわば「連立」美術館として市民及び利用者によってその〈評価〉を受けることになる。
少なくとも美術館という主体性が、カネや数字、結果主義によってのみ判定・価値付けされることなく、
その内実とさらなる充実によって国内外の評価につながる「福岡市美術館」であって欲しいものだが。

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