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美術折々_130
世界は転倒を待っている
深夜の街を歩きながら、ガラス窓に灯る文字をふと切り取ってみた。
でも、宙刷りになってしまった写真の “ON” は一体何に「触れて」いるのだろう。
もちろん、その電飾文字は分厚いガラスの内側に貼り付けられている。
だったら「ガラスの」ということでは、 “On the grass” ということになるが。
でもこの切り取られた “ON” だけでは何も語れない。
凍てついた暗い冬の夜に向けて放つ、意味不明となってしまった白色光 “ON”。
それはまるで何かを渇望しているかのように、僕には見えてしまう。何かに触れたい、と。
だが、ここでは主体も他者も物体も、一切がない。ただ白く抜いたように “ON” だけが光り続けている。
でもこの “ON” を転倒させて見よう。そう “NO” だ。 否(ノン)という、否定の言葉が現れる。
そうなのだ。世界を直ぐさま転倒させれば、天地を逆転させれば、“ON” に隠されたその意味が見えてくる。
世界を見るとは、世界に触れるとは、そういうことではないのだろうか。