calendar_viewer 元村正信の美術折々/2019-09

2019/9/26 (木)

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美術折々_231

狂おしき日々の叫び

このところ、僕がディレクションをさせて頂いた企画展『モノリスの向こう』の紹介ばかりしていたので、
ある方から元村自身の個展の方は大丈夫なのか、と聞かれた。
そう、アートスペース貘の個展[10月28日〜11月10日]まであと1ヵ月余り。いつものごとく、まだまだ
なのです。生来の怠け者ゆえ、全ては直前まで不明。

情けないと言えばなさけないのだが、描いては考えまた描くことの繰り返し。むしろ描いている時間のほうが
少ないのかもしれない。僕は、絵画というのは描けば描くほど「絵」になっていくから描くだけでは駄目だと
思っているので、描きながらそこからどう引き返えすか、あるいは描かないかということが大事だと。

そんなことばかり考えているので、なかなか作品は出来上がらないという訳だ。
まあ、いずれにしろあと1ヵ月。夏は終わったのか、秋は来るのか。すっかり四季もなくなり、私たちが生んだ
危機と被害ばかりが渦巻くこの小さな島国で、ただただ僕は狂おしく叫んでいるのです。

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 ▲写真は、元村正信「抗い結晶するわたしたちの」2018
  アートスペース貘 個展より

2019/9/21 (土)

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美術折々_230

モノリスの向こう  近藤祐史│古賀義浩

先日来より、このブログで紹介してきた企画展『モノリスの向こう』近藤祐史│古賀義浩 
が、いよいよ連休明けの 9月24日[火]から福岡市中央区舞鶴1丁目のアートプロ ガラで始まります。
http://www.artpro-gala.com

明日、日曜は作家によるセッティングの最終調整と確認をしてオープニングを待ちます。
同じ日に新聞の取材もさっそく入っており、いいスタートが切れそうです。

ディレクションを担当した僕が今展のDMに書かせてもらった、近藤祐史と古賀義浩についての文章を
参考になればと思い下記に抜粋しておきます。福岡にお出掛けの折は、ご覧いただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いします。


▪️近藤の作品は、いっけん古典的とも言える塑像技法によってできたセメントの人体彫刻と見えるかも知れないが、単なる写実とはことなる自己と他者の分有あるいは乖離としての像[ヒトガタ]を見る者の前に差し出す。それは同時にリアルな人体の塊としてではなく、むしろそのリアルさを溶かし腐食するかのように像[ヒトガタ]が、ある種の不全感や不完全性によって貫かれていることにまず注目したい。まさに具象化した仮象という〈特異な塑像〉に私たちは、触れることになるはずだ。

▪️古賀は、モデリングともカービングともちがう手法で彫刻との関係を思考してきた。とくに水や熱を媒介に重曹、パラフィン、蝋燭など素材の物性や密度、つまりそれら軟質の微細な粒子の集積や流動性によって生まれる作品が、そのまま彫刻と非彫刻の両義性を孕んでいることだ。ここでは目指されるべき形の完成というよりも、素材の絶えざる持続と反復によって露わになる形の行方を、私たちは目撃することになる。それは完成と未完成をめぐるアンビヴァレンツそのものとして私たちに示されるだろう。

2019/9/12 (木)

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美術折々_229

『モノリスの向こう』について


モノリス(monolith)という言葉は、もともと古典ギリシア語の「一つ」(mono)と「石、岩」(lithos)との複合語から派生した古典ラテン語形(monolithus)に由来し、「一枚岩」と表されてる。まずはひとつの巨大な塊状の岩や石を思い浮かべて頂ければいいでしょう。また映画『2001年 宇宙の旅』(1968年)での謎の物質、400万年前の黒い石板状のモノリス。

それら古代モノリスに思いを馳せる一方で、現存するモノリスや今にいたる無数のモニュメントといったものと「芸術」はどのように関わってきたのだろうか。さらに現在、彫刻と呼ばれるものはそれらといったいどう繋がりあるいは断絶しているのだろう。それだからこそ、同映画の原作者アーサー・C・クラークが呼んだ「新しい岩」とは、この意味でモノリスを超えて「彫刻」の始まりと同時にその向こうをも想起させてくれるのだ。

おそらく彫刻と呼ばれてきたものがひとつの塊から掘り出され、あるいは新しい塊をつくるにせよ、またそのような塊から離れるにしろ、このモノリス的なものをどこかで意識してきたに違いない。いま彫刻というものは、たえざるその概念への問いの先に「非彫刻」ともよぶべきものを抱え込みながらなおも拡張され続けている。
それはまた非モノリス的なものの方へかも知れない。

今回の企画展『モノリスの向こう』はこれらを踏まえた上で、福岡を拠点に活動する二人の彫刻家、近藤祐史と古賀義浩を取り上げた。彼らは、そんな彫刻/非彫刻をめぐる概念や既知の作品とはことなるものをいかに試行し、またそれをどう乗り超えようとしているのだろうか。展覧会のタイトル「モノリスの向こう」は、どうじに彫刻の向こうでもある。彫刻は、いかに彫刻を超え出ていけるか、未知の領域に踏み込めるか。

そのような視座で彼らの作品を見るとき、それはどのようなものとして私たちの前に立ち現れるのでしょう。
ここで新たな作品をご覧いただければと思います。

                                     ディレクション│元村正信

http://www.artpro-gala.com

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2019/9/5 (木)

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美術折々_228

『モノリスの向こう』

7月に予告していた福岡市内のギャラリーでの企画展のことをこのブログをかりて紹介させていただきます。

・展覧会名:『モノリスの向こう』近藤祐史│古賀義浩│ ディレクション:元村正信
・会  期: 2019年9月24日[火]〜10月26日[土]12:00〜18:00│日・月曜休
・会  場: アートプロ ガラ 福岡市中央区舞鶴1-3-31 ハイラーク舞鶴南側1F
                Tel. 092・738・0655 ・ Fax. 092・738・0656
                www.artpro-gala.com


この展覧会は、アートプロ ガラの画廊企画で、元村正信がディレクションを担当。
福岡を拠点に活動する二人の彫刻家、近藤祐史(1981-)と古賀義浩(1986-)を取り上げる。

ふたりとも以前から注目されてきた作家であり、また2002年から僕が寄稿していた新聞の展評欄で
紹介したこともあり、いちど近藤と古賀の作品をおなじ空間のなかで見てみたいという、ひそかな
希望があったからだ。周知のようにひと口に「彫刻」といっても、現在ますますその作品そして概念は、
彫刻からの逸脱を孕みながら拡張され続けている。

近藤祐史と古賀義浩はともに1980年代生まれで、日本の「現代美術」が崩壊した後の2000年代以降に
作家活動を始めている。つまり、かつての現代美術が芸術が「アート」といわれるようになった時代だ。
そんな中で彼らが「彫刻/非彫刻」を巡る問いをいったいどう受けとめているのか。
この企画展は近藤祐史と古賀義浩という二人の彫刻家の、それぞれの作品の可能性の先端に、そんな問いを
重ねて見ようとする企てだ。未知なる「芸術」を、ここで彼らの新作に見ることができればと思っている。

ぜひ皆さまに見ていただければと思います。ご期待ください。

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