…………………………………………………………………………………………………………………………………… 美術折々_36 うっすらと雪景色 ~ 冬の遅い朝に、久しぶりの雪。それももう昼すぎで。とくに仕事もせず用事もない日であれば、 だれにとっても少しばかり積ったこのような雪は、日本の南の地方では一種の風情というものなのだろう。 そとでは見知らぬ子どもたちの、雪を歓ぶ声もしたが、僕はこうして一歩も動かず窓越しに、 凍てついた外界を推測するばかりの怠け者である。 幼い頃は寒かった。私たちの知らないそのもっともっとずっと昔は、もっと寒く貧しかったに違いない。 手に届かないものばかりに囲まれた今の〈現実〉からは想像すらできないような、雪景色がすぐそばに 美しくも圧倒的に広がっていたのだろうか。いや、美しさなど、ちっぽけなものだったに違いない。 この一枚のガラス窓を境に、隔てられた世界。だが一枚というのは、じつは一枚ではない。 幾重にも何層にも隔てられ、こうして「世界」は遠ざかっていくのだ。 ほんらい雪でしかない雪もすぐさま、雪とはことなる透明な〈雪〉となって、桎梏となって、 しかもいつまでも融けることなく、私たちに降り積もっていく。 この部厚く、強固で、曇った〈窓越し〉に、僕のからだに。 ~ #lightbox(snow_16006.jpg,,30%)