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美術折々_264
餓えた夜の花びら
もうすぐ春の夜の とばりがおりてゆく
そのかたわらで ただ 数だけがカウントされている
僕だって池に散っていく薄桃色の花びらを数えているのに
それでは数がたりない 追いつかないのだ
最悪の数は 次の最悪の数によって塗り替えられるというのに
散る花びらだけでは足りない ならば急ぎの花びらをつくろう
あの池が闇に溶け込むまえに 花のかたちをした 数をつくろう
でも焦ってはいけない 気色ばむ数は 花びらを偽装するから
どこまで私たちは 数というものに 支配されなければ ならないのだろうか
少なければ 叱咤され励まされ 多ければ 喜びほめられてきた 数
いつしか そんなスタイルに馴染んできた とにかく数だ 結果だと
しかし数はあくまで強制ではないという 要請だと
もうこれからは ひとりでいいんだ 少数でいいんだ 多数はやめよう
だって多数が 最悪を招くのだからと 言われるから
もうこれからは 何も見まい 口も聞くまい 動くまい 耳も閉じて
ただひたすら 閉じこもろう 引きこもろう 次の春が来るまで
ただひたすら そうやって 散った花びらが じぶんを数える
そんないちにちの生も やがて餓えた夜に おりてゆく