元村正信の美術折々/2019-03-18 のバックアップ(No.1)


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美術折々_198

絵画ならざるもの[その一]

かつてここに〈海の家〉があったという。

見えない漁船の油と、海草と、そして肌をさす潮の、交じった匂い。

僕たちのあおじろい夏のはじまりは、いつもここからだった。

きみは少しづつ膨らみかけた胸いっぱいに、その複雑な匂いを吸っては。

僕などよりもずっと遠くを見つめていたのだ、その空洞のような眼差しで。

でも閉じた扉しかなかった〈海の家〉が、いつ無くなったのかは知らないが。

僕たちがいつもその家を背にしてただ沖だけを見つめている間に。

〈絵画〉というものは、〈絵画ならざるもの〉に目覚めていったのだった。