元村正信の美術折々/2017-03-25 のバックアップ(No.1)


……………………………………………………………………………………………………………………………………
美術折々_90

儚さという告発

桜の花がまだつぼみの、ちょうど今頃。肌寒いこの時期に、どこか寂しげにそれでも
たくさんの白い清楚な花を咲かせるハクモクレンが僕は好きだ。

可憐でも華やかという訳でもない。背の高い枝一杯に花を咲かせてはいるけれど、
むしろ哀しさを全身にまとっているような佇まい、とでも言えばいいのだろうか。
春がすみの曇り空によく似合う白さだ。

咲いていながら、半ば閉じたように咲く姿は、どこかかたくなでもある。
それでも風が吹けば、たやすく散り、たとえ咲いても短いその花のいのち。

私たちだって、時としてそんな生き方を余儀なくされもするが、
誰もがいつもそのように生きているわけではない。
まわりを見渡しても、虚偽、欺瞞、隠蔽の応酬によって塗り固められたこの世は荒野。
黒々としたこの息苦しすぎる地平で、やっと咲いた花に、人は何を見ているのだろう。