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美術折々_90
儚さという告発
桜の花がまだつぼみの、ちょうど今頃。肌寒いこの時期に、どこか寂しげにそれでも
たくさんの白い清楚な花を咲かせるハクモクレンが僕は好きだ。
可憐でも華やかという訳でもない。背の高い枝一杯に花を咲かせてはいるけれど、
むしろ哀しさを全身にまとっているような佇まい、とでも言えばいいのだろうか。
春がすみの曇り空によく似合う白さだ。
咲いていながら、半ば閉じたように咲く姿は、どこかかたくなでもある。
それでも風が吹けば、たやすく散り、たとえ咲いても短いその花のいのち。
私たちだって、時としてそんな生き方を余儀なくされもするが、
誰もがいつもそのように生きているわけではない。
まわりを見渡しても、虚偽、欺瞞、隠蔽の応酬によって塗り固められたこの世は荒野。
黒々としたこの息苦しすぎる地平で、やっと咲いた花に、人は何を見ているのだろう。