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美術折々_85
ブリキの土地
車いち台、人っこひとりいない、だだっ広いばかりの駐車場。いや正確には、僕がいた。
きっとこんな日は誰も来やしないのだ、そう決めつける、僕もいた。
とある岳のふもと。崖下には白梅の咲く小さな畑があり、そしその先の海には
すぐにも手が届きそうな、鉛色の能古島が見えた。
もう何年になるだろう。こうしてここに一人たち、振り返っては、
いろんな海の色を見てきた僕は傍観者。
けっきょくここが、彼の棲みかになった。彼が心から愛した「土地」が彼をすてたのだ。
愛することと、愛されることは、どこまでも交わらない。
ただそこに「愛」があるだけの。ほんの、ひと時の、愛を介した交わらない交わり。
そういう、ほんの繰り返し。
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