元村正信の美術折々/2016-12-25 の変更点


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美術折々_80
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おめでとう40周年、「屋根裏貘」
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「アートスペース貘」右奥のカフェ「屋根裏貘」が12月24日(土)、1976年のオープンからちょうど
開店40周年を迎えた。これまで多くの人たちに支えられての40年だったに違いない。思えば学生街の小さな
喫茶店のひとつだった1972年の「貘」の始まりから数えると、すでに44年の歴史を持つことになる。

ここ天神3丁目の店も、最初からひとりで両方の「貘」を切り盛りし、おそらくどんな危殆に瀕してもこの
場所をここまで守り抜いてきたオーナー、小田律子の苦闘なしにはあり得なかったと言ってもいいだろう。

「屋根裏貘」と、明けて1月4日オープンの「アートスペース貘」が、ずっと互いを支え合ってきたことはよく
知られるとおりだ。あれから40年が経つ。時代はすっかり変わってしまった。この通りの賑やかさも様変わり
した。それでもその名の通り屋根裏部屋のごとく隠れ家のようなここだけは、ほとんど開店当時のままの姿で
福岡・天神3丁目の交差点のすぐそばに今もある。風雪に耐え、とよくいうが細い古びたビルの2階にあって
このふたつの「貘」も、多くのときを耐え抜いてきたのだろう。

僕もあの開店の日の、人もまばらなクリスマスイヴの夜から、ながく「貘」をみてきたが、これまでもそして
今も小田律子の優しさには、ハラハラしどうしなのだ。彼女のように稀にみる強靭な意志と頑固さ、それに
安息というものを知らない体を持っていてさえも、である。

きっと小田律子という比類のない個性が、「貘」を、そして〈明日なき画廊〉をこんなに遠くまで引っ張って
きたのだと思う。こうして時代は巡っても、若い子たちが今も「貘」を求めてやって来てくれる。
それぞれのかけがえのない「時」を過ごしに。うれしいことだ。それはあの頃と何も変わらない。ただそれを
見つめてきた僕たちが年を重ねたことを別にすれば。

そうして今日から明日へと日付が変わろうとする頃。いつものとおり店に流れ出すトム・ウェイツ「Closing Time」。さあ、またはじまるのだよ、そろそろ帰ろうと、呻くように絞り出すような声でトムが客たちの肩を
やさしく撫でる。朝焼け、光り輝く星々…。希望は今夜にも溢れ、彼や彼女たちの上に降りそそいでいる、
やさしく撫でる。朝焼け、光り輝く星々…。希望は今夜にも溢れ、彼や彼女たちの上に降りそそいでいる。
この悲惨きわまりない、今も。

それでも、どこまでも。もっと先へ行こう、先へと。