*美術折々_02 美術折々_02 大塚咲X夕希 展 ちかい春の風がまじった昨夜とは違って、寒かったきょうの昼下がり。 屋根裏貘のカウンターで、初めて来たというひとりの少年と出会った。 彼はひとつ置いた左の椅子に腰を下ろすなり、「ブラック」といった。 懐かしい響きだ。 ブラック。もちろんコーヒーのことであるが、 つまり砂糖はいらないという注文のしかたである。 こんなオーダーの仕方ができる少年が持つ、懐かしさ。 そのまえに、僕は隣りの貘のギャラリーで、130点程もあろうかという ふたりの女の吐息に充ちた生々しい写真の「熱」に接したばかり…。 初めて会ったこの色白の華奢な少年と、彼が吐いたブラックのことばの響きを、 当然その写真を見てきたであろう彼と、女たちの艶かしさを 重ねずにはおれなかったのだ。 ~ ~ ~