元村正信の美術折々/2018-12-21 のバックアップソース(No.1)



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美術折々_182
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[美術番外編] 例の片側空け
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近年いっそう、駅などのエスカレーターで「危険マナー」と啓蒙告知される例の片側空けと空き側の歩行。じつは僕もそのひとりなのだが。たしかに転倒、転落事故防止や体の不自由な人への配慮をというのは当然だし、そもそもエスカレーターは歩いて昇降することを想定していない、というのも分かる。これまでの長年の経緯はあったにしても。でもなぜ駅側の呼びかけにもかかわらず、なかなか改善されないのか。            これはどう見ても、私たち病う現代人の、群れと個を巡る関係の一端なのだ。それは人と人との間の距離の取り方、警戒心の表れなのではないか。想像してみよう。見ず知らずの他人同士がエスカレーターの上から下までじっと立ったまま横二列に並んで運ばれている落ち着かない光景を。いつの頃からか私たちは徐々にこのわずかな時間でさえ、その距離の近さを、避けようとしてきたのではないか。ましてや長い時間の横二列。つまり二列への抵抗や違和感は、やがてズレを生み交互に一人乗りになり、やがてその隙間を縫って先を急ぐひとは駆け上がるようになり段々と片側空けになったというのが、僕の見立てだ。一人でいられる「片側空け」の生理と、忙しく急いでいる人にとっての階段より早い「空き側の歩行」の合理がここで一致する訳だ。いまとなっては永き「二人乗り」のこのエスカレーターの構造がわざわいしているのである。かつてあの、デパートのエスカレーター上に他人同士が隙間なく連なって昇降していた混み具合は、いま思うとむしろその方が異常な光景だった気もする。じゃあ、どうしたら解決するのか。

究極の解決策を単純に言ってしまえば、すべてのエスカレーターを順次「一人乗り」に転換していくことだ。現に僕の家の最寄りの地下鉄駅では一人乗りのエスカレーターもある。大きな駅では、この一人乗りを何本も平行して上下方向に設置しなおして行くしかないのではないか。それしか病う現代人の奇妙な「危険マナー」は、なかなか改善できないのではないだろうかと、ざわつく年の暮に、ふと考えてしまった。