…………………………………………………………………………………………………………………………………… 美術折々_159 ~ いってしまった、運転士たちよ ~ ある私鉄沿線の駅ホーム。錆びついた蛍光灯のカバーの色にその青白い光が怪しく馴染んでいる。 夏の昼間だというのに屋根の向こうの空は、異常な汗と涙とも一切無縁のようで、どこまでも冷静な灰色だった。 これは明日の予告なのか。あるいは、きょうの照りつける日射しの隠蔽なのだろうか。 ここでぐるりと首を廻せば、澄みきった青い海も泥沼の残滓も永久凍土もすべてこのホームから見渡すことができるという。 ほんとうだろうか。 それにしても何日電車を見送れば帰してくれるのだろう。運転士たちよ。そこかしこに見ず知らずの子どもたちを縛り付けたまま、 その親たちを捕縛していってしまった、運転士たちよ。ホームで泣きじゃくるこの子たちに親を帰してはくれまいか。 たとえこの夏が、親たちの欺瞞に鉄槌を下すことがあったとしても。