元村正信の美術折々/2016-05-11 のバックアップソース(No.1)

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美術折々_53
 

「これからの美術館」の、これから (1)
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すでに知られるとおり、福岡市美術館が施設の大規模改修のため今年9月から2019年3月までの約2年半の間、
休館する。1979年11月の開館から37年。施設・設備や各種機能の老朽化、低下等の諸問題を含めた質的向上のための改修と運営の刷新という、大きな二つの課題を背負っての美術館リニューアルに着手する。

この37年間にわたる同館の活動は、私たち福岡市民そして内外の利用者にとってどのように映り、評価されて
いるのだろうか。また長い休止期間をはさんだ再開後を含め、福岡市美はどう変わろうとしているのだろうか。

計画の概略は、同館HPの福岡市美術館リニューアル基本計画2012「つなぐ、ひろがる美術館をめざして」で
知ることができるので、読まれた方もいるだろう。

すでに2012年に、福岡市美術館は、アジ美、市博物館とともに福岡市教育委員会の管轄から経済観光文化局に
移管されていて、3館ともに本来の活動に加え「集客・観光施設としての役割」をも担わされているのは周知の
とおりだ。

そして今回何よりも留意すべきは、改修から再開後の美術館運営が、これまでの福岡市美術館から民間事業者に移行することである。採用された「PFI方式」では、選定された民間事業者が実施設計以後の工事経費の調達
から建設、維持さらに美術館運営までを一括して行う方式だ。落札価格は99億8800万円超。
事業契約等の内容については福岡市のHPから閲覧できる。

いずれにしろ市は、ひいては私たち市民は、利用者は、リニューアル及び今後の運営にかかる費用を
「サービス購入料」として割賦して、つまりこの民間事業者に対して工事及び運営にかかる諸経費を当面15年間に渡って分割払いして行くことになる訳である。

だからこそ、税を払う私たち市民は、また利用者である私たちは、福岡市美術館の 「これから」を注視し、
公共の施設が、民間事業者によって適切に運営されているかどうかを、その業務内容や業績等をつねにチェックし、評価して行くことが必要だろう。また当然そのための第三者機関のあり方や仕組みの透明性も求められる
だろう。

特に福岡市は2002年に同市では初めてのPFI方式を採用し民間事業者による 旧「タラソ福岡事業」において、
わずかその2年8カ月後に国内初の破綻として苦い経験をしていることを忘れてはならない。

さてその、 「これからの美術館」と題した福岡市美術館クロージングトークショーが、3人のパネリストを迎え
5月21日(土)午後2時〜4時30分まで同館講堂で開催されるという(申込要)。福岡市美があげるリニュー
アル方針「つなぐ、ひろがる美術館をめざして」という理念が、先行する他の美術館や施設の具体例と、どこが
同じで、どこが違うのかを見極めることも大事だろう。

いまや国内の博物館や美術館の多くは、その専門性に向けられた「文化芸術振興」という名の規制緩和、
エンターテインメント化という要請に揺さぶられ続けている。福岡市美術館もまた例外なくこのリニューアルを機に、「全ての人々にとっての文化芸術」という、そう、目もくらむばかりの基本理念をかかげ「すべての
ひと」を楽しませ、元気づけ、迎え入れる準備をしなくてはならない。

「これからの美術館」というのは、そんな未来への抵抗と確執の代償なくしては成り立ってゆかないように、
僕には思えるのだが、どうだろうか。