元村正信の美術折々/2015-12-27 のバックアップソース(No.1)

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美術折々_31
 

『貘』の誕生日
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12月24日 クリスマス・イヴ。「屋根裏貘」が、賑やかな39周年を迎えた。
思い返せば1976年。慌ただしく年の瀬も近いオープンだった。もともとは九産大前のバス停そばに、まだ若かった小田夫妻が「貘」という学生相手の小さな喫茶店を1972年に開いていた。ふたりの志向からだったのだろうか、自然と店は芸術学部の学生や若い教師たちの溜まり場となっていった。それが軌道に乗り、続いて出した店が、天神3丁目の今の「屋根裏貘」という訳だ。この店は、ご存知のように「アートスペース貘」というギャラリーを併設してスタートしている。

今でこそ「屋根裏貘」は小田夫妻と若いスタッフ達で運営しているが、76年当時は九産大前の店が、夫の小田満。新しく出きた天神3丁目の店が、妻の小田律子。若いスタッフを使いながらそれぞれ別々に担当していた。
僕がまだまだ学生だった頃である。

屋根裏貘のとなりの「アートスペース貘」の正式なオープンは、年明けの1977年1月4日。僕の恩師でもある
「清水国夫展」で幕を切った。いまでも変わらないのは、カフェがギャラリーを支え、またギャラリーがカフェを支えるといった「一対の関係」である。どちらが欠けても「貘」ではないのだ。39年間という長いあいだ憂き世の激流にあって流されもせず、この通りのそばにずっとあり続けてきたことに驚かされる。むろんその道のりは平坦ではなかったことは、言うまでもないだろう。

思うに、店の主(あるじ)と客との関係は、さながら生き物のようだ。主は客に励まされ、客は主に惹き付けられる。店というものは、そうやって〈見世〉になって行く。いい店ほど、続く店ほど、客が主をつくり、客は主に勇気づけられもするのだ。

12月24日という日は、『貘』にとって、年の瀬であり、同時に新たな1年の始まりの日でもある。
またあたらしい若い客や未来の作家たちが、この細い急な階段をのぼり、ほの暗い屋根裏部屋の扉を、少しの勇気をもって押し開けば、きっと大人になるための「時間」が、「芸術」が、ジャズや珈琲、お酒とともに、いつも待っていることだろう。

そんな扉を一度ひらいて見てはいかがだろう。「ひとり」でいる時間を感じながら、邪魔されずに過ごせるそんな場所でもあるのだから。