元村正信の美術折々/2017-04-12 のバックアップ(No.1)


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美術折々_93

花の挽歌

4月21日に「屋根裏貘」で新刊の出版記念トークをするという上野 誠は奈良大学教授で気鋭の万葉研究者で
ある。その上野の研究対象でもある「万葉集」には、挽歌、相聞歌、雑歌の三大部立があることはよく知られ
ている。

挽歌というなら、現在アートスペース貘で開催中の、尾花成春展のタイトルも「花の挽歌」だ。
今は亡き尾花成春が描いた「花」の油彩画の数々をセレクトした今回の企画は、それを見る者とともに悼む、
まさに追悼の「歌」となっている。だから「花の挽歌」とは、様々な一輪の「花」を晩年は特に好んで描いた
尾花への、貘のオーナー小田律子のオマージュでもある。

尾花成春は、1926年福岡県浮羽郡吉井町に生まれ、昨年2016年7月に90歳で亡くなった画家である。
7年前、同じ貘での尾花の個展「花に語る」。その黒い土を塗り固めたような「闇」に咲く、か細きその花を
して岩本鉄郎は、「此処にこの世ならぬ白い花がある」と記している。

かつて九州派にも関わったことのある画家、尾花成春といえば、やはり僕は、いわゆる「筑後川」の連作を
挙げたい。枯れたように、しかし大きな川を渡る風に吹かれ、うねり、なぎ倒されそうにあっても、根をはった川岸の草木たち。

なぜ、尾花が晩年「筑後川」から離れ、一連の「花」へと向かったのかは、僕には知るよしもない。
だがその移行には、岩本鉄郎が読み取ったように「この世ならぬ」ものを、すでに尾花の中では一輪の「花」
に託して描き切ろうとする企みが、あったのかも知れない。

だとするなら、これらの「花」は、何かに語りかけるように描こうとした、彼じしんの願望の形見だったの
だろうか。私たちはまさに、ここでその形を見ているのである。

吉井に生まれ、吉井で逝った画家。こうして今となっては無言の花の歌となってしまった、この春の寂しさよ。

                                   [同展は4月16日(日)まで]