美術家・元村正信氏に、アートスペース貘で見た展覧会の感想や
折々の事などを、美術を中心に気の向くままに書いてもらいます。 artspacebaku
美術折々_01
はじまりに
今回から「貘」のサイトの中に『元村正信の美術折々』というメニューのひとつを任せて
頂くことになった。「日記」ではないので、毎日更新という訳にはいかないが、
アートスペース貘で毎月見る展覧会の中からの感想を中心に、ギャラリー右奥のカフェ
「屋根裏貘」のカウンター越しに触れた人間模様、あるいは日々の思索や好きな散歩の
折々にすれ違った光景など、時には写真も交えながら、気の向くままに不定期ではあるが
すこしづつ綴って行こうと思っている。
たまには、息抜きがてら覗いていただければ幸いです。
元村正信
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美術折々_02
大塚咲X夕希 展
ちかい春の風がまじった昨夜とは違って、寒かったきょうの昼下がり。
屋根裏貘のカウンターで、初めて来たというひとりの少年と出会った。
彼はひとつ置いた左の椅子に腰を下ろすなり、「ブラック」といった。
懐かしい響きだ。
ブラック。もちろんコーヒーのことであるが、
つまり砂糖はいらないという注文のしかたである。
こんなオーダーの仕方ができる少年が持つ、懐かしさ。
そのまえに、僕は隣りの貘のギャラリーで、130点程もあろうかという
ふたりの女の吐息に充ちた生々しい写真の「熱」に接したばかり…。
初めて会ったこの色白の華奢な少年と、彼が吐いたブラックのことばの響きを、
当然その写真を見てきたであろう彼と、女たちの艶かしさを
重ねずにはおれなかたのだ。