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美術折々_263
近しくも遠いもの
「最悪の事態」とは何のことだろう
最悪の先にはさらなる未知の最悪があるはずだ
じゃあ人類共通の最悪というものがあるのだろうか
たとえば「最高の美」はどこにあるのだろう
だれもが同時に共有でき感受することのできる
最高の美などあるのだろうか
小林秀雄はかつて
美しい花がある 花の美しさという様なものはない と言った
しかもその美しい花は 人それぞれにあって
美しいものは異なるはずだ
それでも だれも経験したことのない事態や美が
この世のどこかにあるのだろうか
それともそれらは これから出合うコトや モノなのだろうか
だったら人類がこれまで経験した最悪や最高とは
何だったのかということになる
それを上回るものを いま想定し あるいは想像して欲しい
という
底なしの墜落 と 喩えようのない恍惚を
まるでひとつの最悪があり 最高の美がひとつしか
ないかのように
それでも 最悪最高は 瓜ふたつ あなたはわたしで
美醜で快不快は つね日頃そこかしこにあるものだ
だれの死だって いつも生の先のどこかにあるものを
その近しくも遠い死を 美を きょうの数にして最悪最高化する
生はもっとたしかに遥かにビミョーで深淵だから
最悪にも最高にもひるまないだろう
いつだって最悪は 最悪のその次にやって来る
だから本当の最悪をひとはまだ誰も知らない