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美術折々_170
アートシンキング
今週の初め、ある大学の大学院芸術研究科の授業の中で少し話をさせていただいた。美術家としての僕のこれまでの作品のことやアートと芸術を巡る問題、それに最近の企業や経済活動の中でもよく主張されるようになったアートシンキングについてなどなど。なかでもこの「アートシンキング」は、狭義のアートについての思考や単なる問題解決のための方法としてではなく、ビジネスや企業活動のうえで「アートの力」によって未来を問い創造していくための方法論などと言われているのだが。ここでの手法というのはアートそのものを問おうとしているのではなく、つまりアート的と思われてきたもの、いわば豊かな感性や創造性あるいは想像力を駆使した問いや問題を提起する力を言っているようだ。
だが、アートが商品になり、商品がアートになる。そうやって芸術もアート化する。さらにビジネスもアート化し、ともにアートもビジネス化しているのが現在である。だからアートは企業の写し鏡などと言われるのも分かるというものだ。もはやアートとビジネスを区別できるものはないに等しい。
たしかに、芸術の概念は絶えず問われ続けている。しかしそれは〈芸術の定義〉への抵抗として、芸術の概念が問われなければならないからなのだ。ありうるかも知れない芸術。それは道具(ツール)化、手段化されない自律する〈問い〉としてあるからではないだろうか。