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美術折々_166
再びこの現実に向けて帰還するものたち
私たち人間の感情反応には、肯定的感情と否定的感情があるのはよく知られる通りだ。肯定的というのは、単純に気持ちいい心地よいとか快適に感じたり安心安堵する感情で、否定的な感情というのは、何かに不満を覚えたり不快や不安を抱くことによって逆に心身の停滞や衰弱すら招くこともある。だがこの、否定的感情は、例えば「なぜそうでなければならないのか」、「そうであっていいはずがない」といった疑問や不信、物事の虚偽や欺瞞、あるいは私たちの生存を脅かすような外圧に対しても反射的に反応するものでもある。
当然このふたつの感情は、私たちの「芸術」にも言えることだ。特に否定的感情というのは、押し付けられた制度、既成の作品や概念への反発あるいは何かを破壊しようとする衝動や、いまだ出合ったことのない想像的な企てにもつながっているものだ。ただこの感情が自己の内面をさまよい搔きまわすだけであるなら、それはやがて行き詰まり絶望を相手にするしかない。そうではなく、この否定的感情によってみずからを超え出て行こうとする、打ち破っていこうとする「意志的」な「超克的」な感情がもしあるのだとしたら、それはやがて肯定的に再びこの現実に向けて帰還することになるのではないだろうか。