美術折々_148
「日本アート市場」のゆく先
5月19日付 読売新聞夕刊1面とweb版の「YOMIURI ONLINE」で、『アート市場育む 先進美術館』と題する記事が載っていた。
これは政府が、日本国内の美術館や博物館の一部を「アート市場」活性化に先進的な役割を果たす「リーディング・ミュージアム」として指定する制度を、来年度にも実現することを目指すものだという。
その約1カ月前、4月17日の「未来投資会議 構造改革徹底推進会合」(内閣府に設置、議長:内閣総理大臣)において、文化庁から『アート市場の活性化に向けて』と題する資料(13ページ)が提出されている。読売新聞の記事も、ほぼこの資料に沿って構成されたものだ。文化庁もすでにその中で「日本のアート市場(美術品)」という言い方をしている。これまでは「美術市場」と一般的にいわれてきたが、公的にも「美術」ではなく「アート市場」という表記が採用されたことになる。「アート」という言葉は、よりいっそう啓蒙され拡散していくことだろう。
この「リーディング・ミュージアム」という新たな制度は、拠点となる美術館や博物館への国からのさらなる補助金交付や体制強化によって、国内市場の成長戦略を「アート」によっても活性化させようとするものだ。
昨年の世界のアートマーケットの規模は、約7兆円ほどだがその内、米国が42%、中国、英国を含めすでに83%を占めている。ちなみに日本は1%以下である。政府がなぜこの国の「アート市場」拡大に躍起になるかが分かるというものだ。
だがそのことよりも、問題は「リーディング・ミュージアム」に指定された美術館や博物館が、どう変わるのかということだろう。新たに導入される制度は、既存の所蔵品の再価値付けをし、残すべき作品を判断しながら投資呼び込みのための売却作品を増やしていくという。
これまで美術館や博物館は、それぞれの館の方針によって体系的にコレクションを形成し、それを基に全ての活動、つまり作品の収集、保存、展示、調査研究、教育普及などが有機的に運営されてきたはずだ。こんなことは美術家の僕が言わなくとも、美術館や博物館の関係者なら当たり前のことだろう。
だがいま、その〈根幹〉が揺らごうとしている。積極的に既存の作品を再評価し売却するための制度によって。新たな成長戦略、構造改革、規制緩和は、アートを巡る個人、企業、美術館やギャラリーそして市場を還流するようにして、すべての「作品」という「商品」を経済価値で格付けしていく。
その先で、この国の「アート市場」の規模は、はたして世界市場の「1%」以上になっているのだろか。そのまえに日本の美術館や博物館が〈崩壊〉していないことを祈りたい。