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美術折々_32
きょうだけの別れ
2015年も暮れてゆく。いっさい何も起こらなかった、なにも変わらなかったかのように、もうすぐ、平然と新年はやって来る。
いったい何が溢れ落ち残ったのだろう。
注いだばかりの鋳型の湯口からあふれ出て、揺らゆらとしたたる灼熱の液体。
「鋳型にはめられなかったものだけがその世界に抵抗できるのだ」(アドルノ)としたら、完璧な商品の、そのそとがわに流れこぼれ落ちたがゆえに、切り取られた「湯口という残滓」こそ、私たち自身の証しなのではないだろうか。
「はめられなかったもの」としての異和を、抱いたまま私たちは、きょうを暮れてゆこう。
あの薄く鋭利な灼熱の残滓は、私たちがいまこうして準備しているせわしげな日の、最後の手の内にあるものなのだよ。